熱分離・光学補正方式のカーボンエアロゾル測定とは
●フィルタサンプリング後のエアロゾルを段階的に加熱しCO2に変換された成分を、メタネーターにてメタン化後、
FIDで検出・定量を行う炭素粒子の測定手法。
●低温加熱時に不完全燃焼により生じる炭化をレーザーによる反射光(または透過光)のモニタリングにより補正する機構を持つ。
●キャリア用または校正用ガスとして、Heやその混合ガスを用いる。
●環境省が定める、PM2.5成分分析ガイドライン「1.炭素成分測定方法(サーマルオプティカルリフレクタンス法)」に定められた公定法。
●2021年3月現在、該当製品として、日本国内ではSunset Labolatory社製カーボンエアロゾル分析装置(ラボモデル)が流通している。
(代理店:弊社、東京ダイレック株式会社)
ヘリウム不足
●ヘリウムは希ガスであり、調達は全て輸入に依存している
●全生産量の約90%はアメリカ、カタールで生産されている(※1)ため、インフラ設備や政情不安などが起こると世界的な需給悪化が起こりやすい
●2000年~2020年にかけ、度重なるヘリウム不足が起きている
※1:名古屋工業大学 産学官金連携機構資料より
https://yamashita.issp.u-tokyo.ac.jp/ISSPWS191106/pp191106/oharapp.pdf
過去のヘリウム不足※2
2002年 米国西海岸港湾閉鎖によるタイト化
2002年9月29日~10月9日まで米国西海岸の主力29港がロックアウト。
2007 年米国ヘリウム生産設備トラブルに伴うタイト化
BLM(米国土地管理局)パイプラインの故障、エクソンモービルの精製プラント修理が重なりヘリウム出荷元企業がフォースマジョールを発動、
世界規模でヘリウム供給力低下。
2011年 ヘリウム生産設備トラブルに伴うタイト化
BLM及びエクソンモービルのトラブルが重なり、供給タイト化に進展。
2012年~2013年初頭のタイト化
BLM、エクソンモービルの定修とトラブルが重なる。ロサンゼルス港で港湾ストライキ。
2017年夏、カタール断交に伴う船便の遅れ
2017年6月のアラブ諸国によるカタール断交の影響で、カタールからの船便に遅れが発生。
2019年 稼働予定のカタールIIIプロジェクト(1,200万m3/年)、事故で遅れる
2020年 世界生産シェアの30%の生産量(5,600万m3/年)を担っていた米国BLMの民間へのヘリウム払い出し終了
※2: (株)ガスレビュー資料より抜粋
https://yamashita.issp.u-tokyo.ac.jp/ISSPWS191106/pp191106/koizumipp.pdf
国内既往研究
●熱分離・光学補正方式の炭素成分分析において、過去のHe不足を動機とした以下の代替ガス検討に関する研究がなされている。
2013年 大気粉塵標準試料を用いた熱光学式炭素分析におけるキャリアガスの影響調査
(萩野氏ら、JARI Research Journal20130708)
http://www.jari.or.jp/Portals/0/resource/JRJ_q/JRJ20130708_q.pdf
【代替ガス種】N2 【使用機器】DRI社 model 2001
2014年 キャリヤーガスに窒素を用いた熱分離・光学補正式炭素分析
(伏見氏ら、大気環境学会誌第50巻第55号)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/taiki/50/5/50_239/_pdf
【代替ガス種】N2/ 【使用機器】DRI社 model 2001
↓
●Sunset Labolatory社製機器でも確認が必要。(代替ガスでの対応を求められるケースが増えている)
●N2/だけでなく、より活性の低いArを使用することはできないか?
社内実験について
【実験条件】
●代替ガスとして、N2/、Arの2種類を用いた。
●分析装置(Sunset Labモデル)は2台用意し、以下の通り比較を行った。
①キャリアガスHe(基準) vs. キャリアガスAr ※実施年:2018年
・試料採取にはハイボリュームサンプラー(Digitel社DHA-80)を用い、500 L/minでPM2.5の24時間捕集を計6回行った。炭素成分分析は、6枚の試料に
対し、それぞれ3回ずつ行った。
②キャリアガスHe(基準) vs. キャリアガスN2 ※実施年:2020年
・試料採取にはローボリュームサンプラー(Thermo社FRM2025i)とハイボリュームサンプラー(Digitel社DHA-80)を用いた。2025iでは16.7 L/minで
24時間捕集を計13回行い、DHA-80では500 L/minで24時間捕集を14回、96時間捕集を計8回行った。
尚、各サンプラーにはそれぞれPM2.5用インパクタを装着し、東京都新宿区の大気環境をサンプリングした。
【設備準備】
●キャリアガス(+校正ガス)は以下の通り準備した。
●流量制御用の内蔵マスフローコントローラーの設定をN2やArに最適化した。
●N2、ArはいずれもHeガスより単位体積当たりの質量濃度が高いため、Calガスを一定量供給するチューブの長さを調節し、両装置のCalガス量が等しくなるようにした。
【予備実験】
FRM2025iは既に多くの機関で使用実績があるが、DHA-80は国内ではそれほど多くない。
DHA-80捕集フィルタ上の均一性が、代替ガス使用時の測定結果へ与える影響を検討するため、均一捕集性に関する予備試験を行った。
【試験条件】
捕集対象:東京新宿区の大気
対象成分:OCEC成分
使用ガス:Heベースガス
対象スポット:7点 (右図①~⑦)
スポットサイズ:1 cm2
【試験結果】
【考察】
EC3についてはバラつきがあるが、検出量が0.03 µg/cm2(検出下限値は0.2 µg/cm2と非常に低濃度であったため評価対象外とした。
その他の成分は誤差9%以内に収まっている。Heと代替ガス使用時の測定値を比較する際に、上記程度の誤差があることを念頭に置く必要はあるものの、比較試験は実施可能であると考えた。
社内実験①:ヘリウム vs. アルゴン (TC、OC、EC)
社内実験①:ヘリウム vs. アルゴン (OC2、OC3、OC4)
社内実験①:ヘリウム vs. アルゴン (EC1、EC2、EC3、Pyrol C)
社内実験①考察 ヘリウム vs. アルゴン
・環境省発行の大気中微小粒子状物質(PM2.5)成分測定マニュアル4炭素成分測定方法(サーマルオプティカル・リフレクタンス法)第3版に示された
IMPROVEプロトコルで反射補正法を用いてTC、OC、ECの分析結果を解析した。
・反射補正法を用いた6試料各3回の分析結果はほぼ一致していた。
・TC、OC、ECそれぞれの分析結果は、R2は0.97以上、傾きは0.95~1.03と非常に良い相関を示した。
・OC1濃度はほぼゼロになるため解析を行なわず、
・OC2、OC3のR2は0.97以上と非常に高い相関となった。傾きも0.98~1.05の範囲内だった。
・OC4については濃度変動が0.5~2.5 µg/cm2の狭い範囲にあるため、R2と傾きも低くなったと考えられる。
・EC1濃度はR2が0.93程度と非常に高い相関となった。傾きも0.94程度と良好であった。
・EC2濃度は非常に低濃度であったためバラつきが出た。
・EC3は濃度が低い為、傾きが0.97とはいえ評価が困難となった。
・PyrolC濃度の傾きは約1.2となり、捕集濃度の均一性とレーザー調節誤差を考慮すると、妥当な範囲と考えられる。
社内実験②:ヘリウム vs. 窒素 (TC、OC、EC)
社内実験②:ヘリウム vs. 窒素 (OC2、OC3、OC4)
社内実験②:ヘリウム vs. 窒素 (EC1、EC2、EC3、Pyrol C)
社内実験②考察-1 ヘリウム vs. 窒素
・環境省発行の大気中微小粒子状物質(PM2.5)成分測定マニュアル4炭素成分測定方法(サーマルオプティカル・リフレクタンス法)第3版に示された
IMPROVEプロトコルで反射補正法を用いてTC、OC、ECの分析結果を解析した。
・TC濃度は2.8~83.81 µg/cm2と広い濃度レンジであった。TC、OC、ECいずれもR2は0.98以上と非常に良い相関を得た。傾きは0.92~1.03となった。
・OC1濃度はほぼゼロになるため解析を行なわなかった。OC2、OC3のR2が0.98以上と非常に良い相関を示し、傾きも0.91~1.00であった。
OC4は濃度変動が0.5~4.72 µg/cm2の狭い範囲にあるため、R2が0.89、傾きが0.87と低くなった。
・EC1濃度は同様にR2が約0.98と非常に良い相関を示し、傾きも1.05であった。EC2濃度は低濃度であったがR2は0.96と良い相関を示した。一方で傾きは
0.88程度であった。EC3濃度もEC2同様に、R2が0.97と非常に良い相関を示した。一方で傾きは0.69であった。
・PyrolC濃度はR2が0.99と非常に高い相関を示した。傾きは1.14であった。
・反射補正分析試料のTCの分析結果は、低濃度~高濃度試料において10 %以内の誤差である。
・OCとECの測定誤差は、中濃度と高濃度範囲の場合は10 %以内になった。
・OC4やEC3について、ハイボリュームサンプラーを用いたり捕集時間を延ばすなどして捕集量を増やすことで、誤差が減少した。
社内実験②考察-2 ヘリウム vs. 窒素
【注意点】
キャリアガスに窒素を用いる場合、酸化オーブンでNOxが生成される可能性があります。
これにより、酸化オーブンの早期消耗や、FIDの早期劣化といった装置不具合や、研究室内へのNOx排出の可能性があります。
代替ガスへの切替について
ガス種切替の際には、以下作業が必要です。
・ガス交換(3種類)
・酸素トラップ交換
・流量校正
・昇温プログラム温度校正
・検量線作成
尚、環境省PM2.5成分測定マニュアル「炭素成分測定方法(サーマルオプティカル・リフレクタンス法)第3版」では、Heやその混合ガスのみがキャリア用または校正用ガスとして、規定されております。
装置紹介
カーボンエアロゾル分析装置(熱分離・光学補正方式)
Carbon Aerosol
Laboratory Instrument Model 5
オートローダー AL-50
オプションとしてModel5に後付け可
◆一般大気中PM2.5の主要成分である炭素の分析装置
◆石英フィルター上の試料中のOC(有機炭素)・EC(元素状炭素)成分を分析
◆OCの不完全燃焼により生じるECの過大評価を、反射光法または透過光法で自動補正
◆マスフローコントローラーによるキャリアガスの正確な流量制御が可能
◆オートローダー(オプション)により、最大36試料のセット~分析までのプロセスを自動化可能
フィルタ自動交換機能付きシーケンシャルハイボリュームエアーサンプラー
型式:DHA-80
低濃度物質捕集時間の短縮化に最適
●シーケンシャル型ハイボリュームサンプラー
●吸引流量:100~1000 L/min
●フィルタセット可能枚数は15枚
●インレットはTSP/PM10/PM2.5/PM1から選択可能
●筐体内に冷蔵庫が付いており、捕集後のフィルタを冷蔵可能
PM2.5標準測定法 シーケンシャル ローボリュームエアーサンプラー
型式:2025i
シーケンシャル型ローボリュームサンプラー
●吸引流量:16.7 L/min
●フィルタセット可能枚数は16枚
●環境省が定める以下PM2.5測定マニュアルに対応
・常時監視マニュアル フィルタ捕集-質量法(標準測定法)
・成分測定用微小粒子状物質捕集法
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TEL: 03-5367-0891 mail: info@tokyo-dylec.co.jp