スポットサンプラを用いたナノ粒子の捕集分析試験

概要:
 米国Aerosol Devices Inc.(ADI社)のスポットサンプラ(Spot Sampler)は、空中に浮遊する微小粒子を水凝縮によって粗大な液滴に成長させることで、捕集板や液面に衝突させて捕集する装置である。同様の原理で動作する凝縮粒子カウンタ(Condensation Particle Counter, CPC)は、凝縮成長した粒子を光散乱法によってリアルタイムに検出・計数するのに対し、スポットサンプラでは捕集後の粒子サンプルに対して成分分析や顕微鏡観察、培養などのプロセスを経ることで目的に応じた分析結果を知ることができる。

 本試験では、29 nmのポリスチレンラテックス(PSL)標準粒子について、静電噴霧および微分型電気移動度分析器(Differential Mobility Analyzer, DMA)による分級・単分散化後に捕集した粒子サンプルを走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope, SEM)で観察することにより、スポットサンプラのナノ粒子に対する捕集性能を確認することを目的とした。また、静電噴霧直後およびスポットサンプラ下流での粒径分布を計測し、凝縮成長によるナノ粒子の粒径変化の確認を行った。

試験日時:2023年1月17日~18日

使用機器等:
1. 発生器: TSI社製 エレクトロスプレ モデル3480

・発生粒子: JSR社製PSL標準粒子29 nm、0.5 vol%(バッファ液で20倍に希釈)
・バッファ液: 20 mM酢酸アンモニウム水溶液
・発生流量(Air): 1.5 L/min

2. 分級器: TSI社製 静電分級器 モデル3080、DMA モデル3081A

・サンプル流量: 1.5 L/min(SMPSとしてCPC使用時)、1 L/min(OPS使用時)
・シース流量: 15 L/min

3. 中和器:アメリシウム(Am241)

4. 計測器: TSI社製 凝縮粒子カウンタ(CPC) モデル3775
・サンプル流量:1.5 L/min
TSI社製 走査式モビリティパーティクルサイザ(SMPS) モデル3936L75
(上記の分級器、中和器、CPCを組み合わせたシステムとして使用)

・粒径分解能: 64 ch/decade
・計測時間: 2分間(スキャン105秒、Retrace 15秒)×3スキャン
・粒径範囲: 5.83 nm~228.8 nm

TSI社製 オプティカルパーティクルサイザ(OPS) モデル3330

・計測時間: 1分間
・粒径範囲: 0.3 µm~10 µm

5. 捕集器: ADI社製 スポットサンプラ モデルSS110A

・捕集モジュール: SEM Sequential
・捕集板: 2分間(スキャン105秒、Retrace 15秒)×3スキャン
・粒径範囲: Ø25 mmシリコンウエハ(アルミニウム製SEMスタブ上に固定)
・Conditioner温度: 5 ℃
・Initiator温度: 45 ℃
・Moderator温度: 20 ℃

TSI社製 オプティカルパーティクルサイザ(OPS) モデル3330

・計測時間: 1分間
・粒径範囲: 0.3 µm~10 µm

6. 分析器:日立ハイテク社製 走査型電子顕微鏡 モデルRegulus 8320
 ・加速電圧:10.0 kV


試験A
試験手順A: 図1に示す試験系にて静電噴霧したPSL標準粒子の粒径分布をSMPSで計測した。

図1 PSL標準粒子の静電噴霧およびSMPSによる粒径分布計測の試験系

結果と考察A:
 SMPSで計測したPSL粒子の粒径分布を図2に示す。公称径29 nmに対して、SMPSのモード径は30 nm(29.4~30.5 nmの粒径チャンネル)で、計測範囲の総個数濃度は1.36×105 cm-3であった。SMPSによる粒径評価で公称径と近しい値が得られたのは、本試験で使用したJSR社製PSL標準粒子は製造時にDMA法により粒径が均一化されており、同じ原理(電気移動度径)に基づく粒径評価を用いたためと考えられる。

図2 静電噴霧でエアロゾル化したPSL標準粒子の粒径分布

試験B
試験手順B:
 図3に示す試験系にて静電噴霧したPSL標準粒子をDMAで分級・単分散化後にスポットサンプラを用いてSEMスタブ上のシリコンウエハに捕集した。DMAの分級粒径は、試験Aの結果を考慮して30 nmに設定した。捕集時間は100分間および10分間でそれぞれ粒子サンプルの捕集を行った。

図3 PSL標準粒子をスポットサンプラで捕集する試験系

結果と考察B:
 捕集サンプルのSEM像を図4に示す。スケールから読み取れる粒径(幾何学的径)はDMAの分級粒径(電気移動度径)に設定した30 nmとよく一致していた。このことから、PSL標準粒子において幾何平均径と電気移動度径は概ね等しく、本試験で静電噴霧・DMA分級されたPSL標準粒子をスポットサンプラによって捕集することができたと考えられる。

(a)100分間捕集

(b)10分間捕集

図4 DMAで30 nm分級後にスポットサンプラで捕集したPSL標準粒子のSEM像

試験C
試験手順C:
 図5に示す試験系にて、CPCで試験Bにおけるスポットサンプラ上流での粒子個数濃度を計測した。また図6に示す試験系にて、OPSで試験Bにおけるスポットサンプラ下流(凝縮成長後、シリコンウエハ上に捕集される前)での粒径分布を計測した。

図5 CPCを用いたPSL標準粒子のDMA分級後の個数濃度計測試験系

図6 OPSを用いたPSL標準粒子のスポットサンプラ下流の粒径分布計測試験系

結果と考察C:
 CPCで計測したPSL標準粒子のDMA分級後(30 nm)の個数濃度は2.06×103 cm-3であった。OPSで計測したPSL標準粒子のスポットサンプラ下流の粒径分布を図7に示す。その総個数濃度は1.13×103 cm-3であり、幾何平均径は4.22 µmであった。A. E. Fernandez et al. (2014)のモデル計算によると、40 nmの粒子はスポットサンプラ通過で3 µm~4 µmに成長することが報告されており1)、今回の結果はそれに近いことから、粒子は正常に凝縮成長していたと考えられる。一方で、スポットサンプラ上流の個数濃度に対して凝縮成長後の個数濃度は54.6 %となっており、捕集効率の公称値(95 %)と比較して低い結果であった。これは、凝縮成長過程における粒子や水滴同士が衝突し合体することで複数のPSL標準粒子を含んだ水滴が生じ、OPSによる粒子個数計測では過少評価された影響と考えられる。

図7 OPSで計測したPSL標準粒子のスポットサンプラ通過後の粒径分布

結論
インパクタによる慣性衝突でナノ粒子を捕集する際、通常は低圧が要求されるが、スポットサンプラを用いることで、大気圧に近い圧力および穏やかな加熱・冷却によって捕集できることが確認できた。またスポットサンプラの通過によって30 nmの粒子が4.22 µm前後の水滴に成長することが確認された。更に、PSL標準粒子について、DMAおよびSMPSの電気移動度径とSEM観察の幾何学的径が非常に近いことが確認された。

参考文献:
1) Arantzazu Eiguren Fernandez, Gregory S. Lewis & Susanne V. Hering. (2014) Design and Laboratory Evaluation of a Sequential Spot Sampler for Time-Resolved Measurement of Airborne Particle Composition. Aerosol Science and Technology, 48:6, 655-663

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